明末中國佛教の研究 181

第三章 智旭の宗教的実践

第一節 智旭の信仰とその時代的背景

一 宗教的実践に関する資料


現代に比して従前の仏教学者は、たとえ彼らがどんなに優れた学問をもつ人であっても、その目的は例外なく仏教信仰の実践並びにこれを社会に広宣するためであった。智旭の在り方も例外ではなかった。したがって、彼の教学思想には、もちろん注意すべきであるが、もし彼の仏教信仰とその実践面を無視して、単に彼の教学思想を取り扱うとすれば、それは実に偏頗なことだといえるであろう。

二仏と二菩薩の信仰は、中国の民間仏教として、ほとんど全仏教を代表し尽しているといっても過言ではないと思われる。すなわち、二仏とは現生利益の延命思想に応ずる薬師如来と、死後に極楽世界へ接引する阿弥陀如来である。また二菩薩は、現世の苦難を救援する観音菩薩と、死後の罪を減免する地蔵菩薩である。智旭は明末の仏教思想家であるが、彼の信仰基盤を考察すると、この民間仏教の範囲を越えていないことが明らかである。智旭の信仰を理解するために、次の資料を表にして掲げて見たいと思う。