明末中國佛教の研究 1f01


本書の著者張聖厳博士は、初め生を中華民国江蘇省に享けた。幼にして禅門に投じ、仏教の学問と実践に足を踏み入れた。後社会情勢の変革に遇い、居を台湾に移した。時に年齢十八歳である。

台湾に於て南天台仏教学院に学び、一九五六(昭和三一年)、その専修科を卒業した。さらに進んで深く天台を究めようと願い、一九六九(昭和四四年)、著者は笈をわが東京に負たのである。

東京に於て直ちに立正大学大学院修士課程に編入せられ、坂本幸男(日深)教授の指導を受けることとなった。修士コースを終って博士課程に進むや、坂本教授は著者に対し、特に『霊峯蕅益大師宗論』(成時編)を研究の対象とするように慫慂された。惟うに蕅益智旭の研究は未だ学界に於て不十分であり、一般に智旭が明末における天台の大家と考えられている事情に鑑み、著者の漢文に対する理解力と天台研究の志望にとって、『霊峰宗論』の討究こそ、最も当を得た課題と坂本教授が判断したためであろう。

かくして本書の著者は、まずこの『宗論』と取り組み、味読すること二十数回に及んだ。 併しながら精読するに従い、智旭の思想と宗教的体験を明らかに知るには、成時編の『宗論』に跼蹐しえないことが、益々瞭然となった。そこで取材の範囲を次第に拡げ、結局、現存する智旭のあらゆる著作、