機根の利鈍に限らず極楽浄土への往生は決定であり、『阿弥陀経』をはじめ『文殊般若経』・『般舟三昧経』並びに『観無量寿仏経』等に、いずれもこの法門を称揚している。そして、四明知礼(九六〇ー一〇二八)の『観経疏妙宗鈔』の中にはこれについて詳細に論述してあると、智旭は述べている。原則的には智旭の浄土思想は、四明知礼の後継と見られるが、『妙宗鈔』にいう卽心念仏および約心念仏という用語は、智旭の著作には見当らない。却って『宗鏡録』に引用された『新華厳経合論』巻第二の「一念相応一念仏」(12)という説、寿昌禅師無明慧経(一五四八ー一六一八)の「念仏心是仏」(13)という説、および『観無量寿仏経』にある「是心作仏、是心是仏」(14)という用語が、智旭の著作にしばしば引用されている。

1 「答卓左車弥陀疏鈔三十二問」参照。\宗論三ノ一巻六―八頁

2 「参究念仏論」参照。\宗論五ノ三巻四頁

3 「答印生十四問」。\宗論三ノ一巻一四頁

4 (A)「念仏卽禅観論」参照。\宗論五ノ三巻七―九頁(B)宗論七ノ四巻一―二頁

5 宗論七ノ四巻一―二頁

6 「示念仏三昧」参照。\宗論四ノ一巻一四頁

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9 『観無量寿仏経疏』に、「四種浄土、謂凡聖同居土、方便有余土、実報無障礙土、常寂光土也。」とある。\大正三七巻一八八頁B、また『維摩経略疏』巻一に、「一染浄国者、凡聖共居。二有余者、方便人住。三果報者、純法身居。四常寂光者、卽妙覚所居也。」とある。\大正三八巻五六四頁B

10 『成唯識論観心法要』巻十参照。\卍続八二巻三四九頁B

11 宗論六ノ一巻一九頁

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13 宗論二ノ二巻一八頁

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第四節 晩年期(五十歳ー五十七歳)における智旭の思想

一 大乗止観法門と智旭

大乗止観に対する評価


智旭の四十代における最も重要な著作は、『首楞厳経』の『玄義』と『文句』並びに『大乗止観釈要』であり、前二者は法門理論の基盤となり、後者は実践修道の観法を説くものである。彼は如何なる書物を註釈する時も、また短篇の文章を書く時にも、常に『楞厳経』をもって理論問題に適用し、『大乗止観』をもって観法問題に対応したが、この二書の内容は軽重の差こそあれ、いずれも理論と観法を兼備しているものである。『楞厳経』については、すでに論述したので、ここでは『大乗止観』に関しての智旭の見解を検討したい。 智旭の全著述中において、『大乗止観釈要』の地位は高い。例えば彼は「刻成唯識論自考録序」に、『大乗止観』に対する次のような意見を述べている。

南獄思大禪師、大乗止観一書、出識論未來之前、具闡性相幽秘、蓋深證無師智耳。(宗論六ノ三卷一七頁)

ここに示されている「具闡性相幽秘」という言葉は、注目すべきである。恐らく『大乗止観』の中心思想には、